精度とにげ

今、マンションの内装改修をやっている。ところが予想以上に元々の建物の精度が悪い。平らでなかったり真っすぐでなかったり、どうやって辻褄を合わせていくのか。大工共々毎日頭を悩ませている中で、「にげ」の重要さ加減が身に染みている。

「にげ」というと、一般的には「にげを打つ」等ネガティブな意味で使われることが圧倒的に多い。しかし、ものづくりの現場こと建築においては、この「にげ」をポジティブに操れるかどうかが仕事の質を大きく左右する。「余裕」とか「あそび」とは少し意味合いが違うこの「にげ」という感覚。熟練の技とはこの「にげ」を上手に使いこなせるかにかかっていると言っても過言ではない。どこにどれだけのにげをとるのか。あえてルーズにしておく部分があってこそ見せ場がピタッと納まるのだ。野丁場でたちあがってくる骨組みと、ミリ単位で納める仕上げとの精度のギャップをつなぐ。また、熱による膨張収縮や、木材の含水率変化による「あばれ」の吸収。地震時の躯体の変形を外壁や窓ガラスに直接伝えない納まりなど、これらの「にげ」は建築を大型化・高層化していくためにも必須の概念なのである。

「にげ」を駆使しないとできません!

ところが、CADをはじめとして日常的にデジタルな道具を使っていると無意識ににげの感覚が鈍っていくように思う。すべての情報が等しく重要そうに扱われるので、常に情報の優先順位を意識していないと、つまらないところに拘ってしまい、見落としてはいけない重要な部分が抜け落ちてしまう。いきなり自分の欲しい情報だけを注視せず、マクロ的に眺めてから部分に降りていく。いまどきの誹謗中傷や重箱の隅をつつくようなクレームも、にげの感覚の退化がひとつの原因のような気がする。

全ての物事が人の営みである以上、設計図通りに納まるはずがないのだから。

どうにか納まっているように見える。マンションのリノベーションでした。

学び舎

公立学校の校舎や体育館などの耐震化率が100%に近づいているらしい。

学校建築だけのこととはいえ、1995年の阪神淡路大震災以降の話なので、結構なスピード感である。それを可能にしたのは、大地震という「外圧」。人命(特に子供たちの)を守るとの安全安心主義。箱物の新築が抑制され行き詰まりつつあった地方の建設業界への配慮。発注業務のパターン化による補助金予算の消化効率の高さ。うちの学校も早くお願いしますと背中を押す市民。完璧なシナリオである。
昨今話題のCOPやSDGsを後ろだてとする省エネ建築推進政策も然りである。柳の下に2匹目のどじょうはいるのか?

実際この期間、地方の建築関連公共工事は「耐震の仕事しかない」と言われるほど耐震関連一色になってしまった。
その功罪のうちの罪の方、老朽化によりそろそろ建て替えなければならなかっった校舎の寿命がいたずらに延びてしまった。内部のリフォームが耐震補強のおまけでついてくるので、利用者側(学校や父兄)もそれなりに喜んではいる。良いものを大切に永く使う精神は重要なのだが、昭和40年代に量産されたステレオタイプのコンクリートの箱ははたして大切にすべき「良いもの」なのか?

丈夫になったことはなったけれど、、、

学校建築は高度成長期の人口増加に従い、それまでの木造校舎を無味乾燥なコンクリートの3階建にしてしまうという罪も犯していた。さらに、限られた校地の中で増築に増築を重ね、結果無計画なコンクリートの箱の寄せ集めに。人間教育の場としての「学び舎」の魅力は放棄してしまった。
それらは、竣工から50年以上が経過し、老朽化を因として順次建替えていくべきタイミングに入っていた。折しも、まちなかの学校は子供人口の減少で空き教室だらけになり、かつては1学年6クラスだったのが現在は2クラスとかに減ってしまったと聞く。そのような実情にあわせて、教室数の縮小や地域活動の拠点となる新しい機能を加えるなど、校舎全体や運動場の配置まで踏み込んだ総合的な見直しができる絶好の機会だったのに。速やかすぎる耐震化推進策は、そんな時間的余裕を与えてくれず、みすみすそのチャンスを逃してしまったケースも多いのではないか。最新の設計手法も取り入れながら、子供たちがワクワクするような記憶に残る学び舎へと更新されていくはずだったのに。

特に財政的に厳しい地方自治体では単純な建替え議論は棚あげされ、行政スリム化の一貫として学区統合による効率的な運営を目指す議論が先行する最悪?の展開へ。我々が学んだ都市計画の基本では、小学校は徒歩で通える範囲になくてはいけない。そして、その地域コミュニティーの拠点となるべき重要な公共施設であるとの原則。そんなノスタルジックな考え方はすでに過去の遺物なのだろうか。たとえかつての「分校」的な規模になったとしても、ここは変えるべきではないと強く思うのだが、、、。

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